工場のリアル、先に言っておく 製造業に入る前に知っておきたいことを、中の人が書く

お金と待遇 2026-07-04

【勤続35年】自動車部品メーカーはきつい?正社員は割に合うのか

体のきつさは、正社員になっても変わりません。変わるのは見返りです。雇用の安定、ボーナス、キャリア。この3つが、きつさに見合うかを判断する材料になります。

私は1989年に自動車部品メーカーへ入社しました。1年間の企業内学園を経て試作課に配属され、以来35年、試作品の組み付けと性能測定をやっています。この記事は、期間工や契約社員として働きながら「正社員登用を狙うべきか。この体のきつさに見合うのか」と迷っている人に向けて、会社紹介ではなく現役社員の本音で書きます。

きつさは3種類に分かれる

「きつい」と一言で言っても、中身は違います。35年見てきた限り、体・単調さ・立場の3種類です。

体のきつさは10年後に効いてくる

立ち仕事、重量物、同じ姿勢の繰り返し。これは想像どおりです。

ただし本当のダメージは「今」ではなく「10年後」に来ます。20代のころは夜勤明けでも釣りに行けました。今は無理です。腰、膝、目。仕事の負担は貯金のように積み上がり、40代半ばから利子つきで返ってきます。

34歳で「今きつい」と感じているなら、その感覚は正しい。「この先どうなるか」を考えているのも正しいです。

単調さのきつさは、量産と試作で質が違う

量産ラインでは、同じ作業を1日何百回と繰り返します。体より先に気持ちが削られる人も多いです。

私のいる試作も、同じものを繰り返し作って得意先に納入することは結構あります。それでもラインとの違いは、自動で流れてこないことです。段取りは自分で考える。ペースも自分で握れる。同じ作業でも「流される」のと「自分で組み立てる」のとでは、疲れ方が違います。

初めての製品なら、まず図面を確認し、組み方を考え、必要な治具(部品を固定する道具)を自分で設計して作るところから始まります。だから試作は、ものづくりが嫌いな人には向きません。好きな人には、量産とは別物の面白さがあります。

立場のきつさは、正社員になると変わる

部品メーカーは、完成車メーカーの都合に振り回されます。納期、仕様変更、コストダウン要求。しわ寄せは現場に来ます。

そして同じ現場でも、期間工・派遣・正社員で扱いに差がある。あなたが一番よく知っているはずです。この立場のきつさだけは、正社員になると目に見えて変わります。

正社員になると変わるもの

仕事が消えたとき、切られるのは非正規から

私が実際に見た話です。世の中が一気にEVへ傾いたとき、エンジン部品の試作はほとんどなくなりました。依頼そのものが来なくなるんです。そのとき、派遣の設計者や試験課の人たちはほぼ切られました。同じ職場で、同じように働いていた人たちです。正社員は、仕事が減っても雇用は守られました。

「仕事がなくなる」はニュースの中の話ではありません。ある日、隣の席の人がいなくなる形で現実になります。

ボーナスが年間5.6ヶ月分、毎年出る

月給だけ比べると「期間工と大差ない」と感じるかもしれません。手当を入れれば、期間工のほうが高い月すらあります。

でも私の会社のボーナスは、今年度の実績で年間月給5.6ヶ月分(夏2.8ヶ月・冬2.8ヶ月)でした。この月数は会社の業績で毎年変わり、個人の評価でも多少上下します。それでも、仮に月給30万円なら年間170万円前後。一度きりの満了慰労金と違って、多い年も少ない年もありながら毎年出続けます。定年時には退職金もあります。

昇進の道はあるが、上には上のきつさがある

正社員は毎年少しずつ昇給します。経験を積めば、班長、組長、係長と現場の管理職に上がる道もあります。期間工のままでは、10年働いても「10年目の期間工」です。

私は班長まで経験しました。上からは納期と数字、下からは不満。人の指導、調整、トラブルの責任。体を動かせば終わる立場から、人と人の板挟みで気を張り続ける立場に変わりました。管理業務は自分に合わないとわかったので、その先の昇進試験は断り、ものづくりの現場に残ることを選びました。後悔はしていません。

正社員のキャリアには「上がる道」と「現場を極める道」の両方があります。上がる道には、上がる道のきつさがあります。

ローンと信用は地味に効く

住宅ローン、車のローン、家族を持つときの安心感。30代半ばからの人生では、これが効いてきます。

変わらないもの:作業そのもののきつさ

現場作業のきつさは、正社員になっても変わりません。立ち仕事は立ち仕事、夜勤は夜勤です。「正社員になれば楽になる」は間違いです。変わるのはきつさではなく、きつさの見返りです。

割に合う人、合わない人

35年いろんな人を見てきて、傾向ははっきりしています。

割に合う人:

割に合わない可能性が高い人:

3つ目は特に重要です。正社員登用は「この会社に長くいる」という選択です。仕事内容ではなく人が原因できついなら、登用はその環境への固定を意味します。

私が35年続けられた理由

もともとものづくりが好きだったから。突き詰めると、これだけです。

試作は、同じものを作ることも多い仕事です。それでも段取りを自分で考え、自分のペースで組み上げ、性能を自分で測って結果を見届けられます。この「自分の裁量で完結する」感覚が張り合いでした。給料が安定していたおかげで、釣りやゴルフという趣味を持ち続けられたことも大きいです。

仕事のどこかに「これは悪くない」と思える部分。仕事の外に楽しみ。両方あれば、この業界は長く続けられます。どちらもないなら、かなりしんどいと思います。

登用を狙うならやること4つ

現場側から見て、登用されやすい人には共通点があります。

  1. 欠勤・遅刻をしない。能力よりまず信用です。現場はこれを一番見ています。
  2. 品質異常をごまかさず報告する。不良を隠す人は、腕が良くても正社員になれません。
  3. 改善提案を出す。小さなことでいい。「言われたことをやる人」から「考える人」になるのが、登用の実態です。
  4. 登用試験の情報を早めに集める。過去に受かった人に、面接で何を聞かれたか聞いておく。

迷っているなら、比べてから決める

ここまで読んで「正社員を狙おう」と思えたなら、それが答えです。

「この会社に固定されるのは違う気がする」と少しでも感じたなら、登用試験を受ける前に、自分の市場価値を外で確かめてください。34歳の製造現場経験者には、思っているより求人があります。比べたうえで今の会社を選ぶのと、他を知らずに選ぶのとでは、同じ「正社員」でも納得感が違います。

この仕事はきついです。でも、きついだけの仕事でもありません。

試作という仕事の中身(図面の読み方から治具作りまで)は、試作と量産の仕事はどう違う?に詳しく書きました。

筆者:工業高校卒業後、1989年に自動車部品メーカーへ入社。1年間の企業内学園を経て試作課へ配属。以来、試作品の組み付けから性能測定までを担当。班長を経験したのち、管理職の道ではなくものづくりの現場に残ることを選んだ。 この記事は個人の経験にもとづくものであり、所属企業の見解ではありません。記載の数値は筆者の勤務先での一例です。 詳しくは書いている人へ。