工場のリアル、先に言っておく 製造業に入る前に知っておきたいことを、中の人が書く

業界のこれから 2026-07-05

EV化でエンジン部品の試作が消えた日。現場で起きたことを時系列で書く

エンジン部品の試作の仕事は、本当に消えました。残業がなくなり、定時まで仕事がもたない日が続き、派遣の人たちが切られました。ただし、話はそこで終わりませんでした。2026年の今、私は戻ってきたエンジン系の仕事で残業しています。

私は1989年に自動車部品メーカーへ入社し、試作課に35年います。EVシフトが現場をどう変えたか、この10年を時系列で書きます。これから部品メーカーに入ろうとしている人の、会社選びの材料になるはずです。

2015年:ディーゼル不正とパリ協定で、風向きが変わった

2015年、ヨーロッパの大手メーカーによるディーゼル車の排ガス不正が発覚しました。ディーゼルは、CO2削減の本命としてヨーロッパが推していた技術です。その信用が一気に崩れました。

同じ年にパリ協定が採択され、世界がCO2削減へ大きく舵を切ります。減らす手段の本命は、ディーゼルからEVに変わりました。部品メーカーの空気も変わります。「EVの部品を作れないとまずい」。エンジンの基幹部品を作る会社ほど、この圧力は強かったはずです。

ただ、このときの現場にはまだ仕事がありました。変化は、少し遅れてやってきます。

2020年ごろ:残業が消え、定時まで仕事がもたなくなった

試作の依頼は、じわじわ減っていきました。2020年ごろには残業がなくなり、そのうち定時まで仕事がもたない日が出てきました。定時割れです。

試作は開発の最前線にいます。世の中がエンジンの新規開発を絞れば、試作の依頼はその時点で来なくなります。量産より先に、試作が枯れる。ニュースで「EVシフト」と聞くより先に、現場の仕事量が先に教えてくれました

最初に切られたのは、派遣の人たちだった

仕事が減って、最初に切られたのは派遣の人たちでした。私が知っている派遣は、設計者と試験の担当で3人。全員いなくなりました。同じ職場で、同じように働いていた人たちです。

正社員は、仕事が減っても雇用が守られました。この差が何を意味するかは、自動車部品メーカーはきつい?正社員は割に合うのかに書いています。産業の転換期に何が起きるか、私はこのとき目の前で見ました。

それでも「エンジンが無くなるわけがない」と思っていた

仕事が減っても、私はどこかで甘く考えていました。ハイブリッドもある。世界中の車が全部EVになるわけがない、と。

2020年、ヨーロッパで一段厳しいCO2規制が始まりました。続けて、国内の完成車メーカーが相次いで「将来はエンジン車をやめる」「新しいエンジンの開発をやめる」と報じられました。完成車メーカー自身が、エンジンを捨てると宣言したんです。このときは、本当に終わったと思いました。

2026年の今:EVが失速して、残業が戻ってきた

ところが、です。EVシフトは世界的に減速しました。価格、充電インフラ、いろいろ理由は言われています。現場の実感で言うと、エンジン系の基幹部品の試作は戻ってきました。今は残業するほど忙しいです。

「終わった」と思った仕事で、5年後に残業している。未来の予測は、プロの経営者でも外します。現場の人間ならなおさらです。

ただし、楽観はしていません。EVの部品への参入は、現場の感触ではかなり難しそうです。今の忙しさは揺り戻しであって、10年20年の流れが変わったとは思っていません。

これから会社を選ぶ人へ:「今忙しいか」ではなく「次の柱があるか」

エンジン系の部品メーカーを受けるなら、その会社がEVや電動化の部品をどれくらい手がけているかを確認してください。会社のサイトの製品紹介を見れば、力の入れ具合はある程度分かります。面接で聞いてもいい質問です。

エンジンの仕事は今、揺り戻しで忙しい。でも長い目で見れば、電動化の流れ自体は変わらないはずです。今の求人の多さだけで選ぶと、10年後に私と同じ景色を、もっと悪い条件で見ることになるかもしれません。

もう一つ。非正規で入るなら、転換期に最初に切られるのは非正規からです。この記事で書いたことは、そのまま繰り返されると思ってください。

試作という仕事そのものの中身は、試作と量産の仕事はどう違う?に書きました。

筆者:工業高校卒業後、1989年に自動車部品メーカーへ入社。1年間の企業内学園を経て試作課へ配属。以来、試作品の組み付けから性能測定までを担当。班長を経験したのち、管理職の道ではなくものづくりの現場に残ることを選んだ。 この記事は個人の経験にもとづくものであり、所属企業の見解ではありません。記載の内容は筆者の勤務先での一例です。 詳しくは書いている人へ。