ルアーを自作する話。考えて、作って、試して、直す
仕事で35年、試作品を作ってきました。休みの日にやっていることも、実はあまり変わりません。バルサ材を削って、ルアーを自作しています。考えて、作って、試して、直す。工程まで同じです。
この記事は、私の趣味の話です。仕事の話ばかり書いてきたので、たまには「この人はこういう人間です」という記事も残しておきます。ものづくりが好きだと、仕事と趣味の境目がなくなる。そのわかりやすい例だと思ってください。
きっかけは、職場の先輩たちだった
始めたきっかけは、職場の先輩たちが作り始めたことです。ものづくりの現場には、家でもものを作る人間が集まりがちなのかもしれません。
最初はシーバス(海のスズキ)用のミノーからでした。ミノーというのは小魚の形をしたルアーのことです。素材はバルサ材、サイズは9センチから7センチくらい。渓流にもたまに行っていたので、そのうち5センチの渓流用ミノーも作るようになりました。
ミノーができるまでの全工程
1個作るのに、これだけの手順を踏みます。
- ミノーのデザインを紙に描く
- 透明プラ板に写して、型を切り出す
- バルサ材に左右の形を転写する
- バルサを切り出す
- 2枚合わせて、ペーパーやすりで形を整える
- ワイヤー(針や糸を留める芯)を曲げる
- バルサにワイヤーが入る溝を掘る
- オモリの入る穴を掘る
- ワイヤーとオモリを入れて、左右を貼り合わせる
- カッターで削って、ミノーの形を作る
- ペーパーやすりで面を整える
- コーティングする
- アルミ箔を貼る
- コーティングする
- 着色する
- もう一度コーティングする
- 目を貼る
- コーティングする
- リップ(水を受けて潜らせる板)をつける
- フック(針)をつけて、スイムテスト
- アイ(糸を結ぶ金具の輪)を調整して、泳ぎを整える
- 完成
紙に描いた線が、最後は水の中で泳ぐ。この間に22の工程があります。市販品を買えば1000円ちょっとで済むものを、なぜわざわざ、と思われるかもしれません。その答えは、この記事の最後に書きます。
一番難しいのは、狙った泳ぎを出すこと
削るのも塗るのも手間ですが、一番難しいのは狙った泳ぎを出すことです。
ルアーは、形が少し違うだけで水中での動きが変わります。オモリの位置と重さ、リップの角度と大きさ、本体の厚み。どれか一つずれると、思ったように泳ぎません。設計どおりに作ったつもりでも、水に入れてみるまで分からない。だから最後にスイムテストをして、泳ぎを確かめます。
ここが面白いところでもあります。頭で考えた形が、実際に狙いどおりに動いたとき。あの瞬間のために作っているようなものです。
失敗もします。色流れ、リップの傾き
もちろん、うまくいかないこともあります。よくやる失敗は2つ。
ひとつは色流れ。塗った色がコーティングでにじんで、狙った模様にならない。もうひとつはリップの取り付け溝が斜めになること。まっすぐ掘ったつもりが、わずかに傾いている。そうなると泳ぎが片側に寄って、まっすぐ泳ぎません。
斜めになった溝を見たときの、あの「あーあ」という感じ。仕事で公差を外したときと同じ気持ちになります。
結局、仕事の試作とやっていることが同じ
こうして工程を並べてみると、自分でも笑ってしまいます。試作と量産の仕事はどう違う?で書いた試作の流れと、ほとんど同じなんです。
- 図面を描く → デザインを紙に描く
- 治具を作る → 型をプラ板で作る
- 組み付ける → 削って貼り合わせる
- 性能測定する → スイムテストする
- 結果を設計に返す → 次の1本で形を変える
一から考えて、工夫しながら作る。この部分が、仕事でも趣味でも一番の楽しみです。治具の記事で「考えて道具から作るのが面白い」と書きましたが、家でも同じことをやっているわけです。
自作で釣れたときは、思い入れが違う
では、なぜ買わずに作るのか。答えは単純です。自作のルアーで釣れたときは、最高だからです。
市販のルアーで釣っても、もちろんうれしい。でも自分で作ったルアーとなると、思い入れがまるで違います。自分が紙に描いた形。自分が削った線。自分が決めたオモリの位置。それが水の中で泳いで、魚が食いついた。設計から結果まで、全部自分の手の中にある。
この感覚は、仕事で味わうものとよく似ています。自分で考えて組んだ試作品が、狙った性能を出したとき。35年この仕事を続けられた理由も、結局はここでした。ものづくりが好きな人間は、休みの日まで同じことをやってしまうんです。
製造業に向いているかどうか迷っている人がいたら、一つの目安になるかもしれません。作ることそのものが楽しいと感じるなら、この業界は長く続けられると思います。