工場のリアル、先に言っておく 製造業に入る前に知っておきたいことを、中の人が書く

試作の仕事 2026-07-25

ルアーを自作する話。考えて、作って、試して、直す

仕事で35年、試作品を作ってきました。休みの日にやっていることも、実はあまり変わりません。バルサ材を削って、ルアーを自作しています。考えて、作って、試して、直す。工程まで同じです。

この記事は、私の趣味の話です。仕事の話ばかり書いてきたので、たまには「この人はこういう人間です」という記事も残しておきます。ものづくりが好きだと、仕事と趣味の境目がなくなる。そのわかりやすい例だと思ってください。

きっかけは、職場の先輩たちだった

始めたきっかけは、職場の先輩たちが作り始めたことです。ものづくりの現場には、家でもものを作る人間が集まりがちなのかもしれません。

最初はシーバス(海のスズキ)用のミノーからでした。ミノーというのは小魚の形をしたルアーのことです。素材はバルサ材、サイズは9センチから7センチくらい。渓流にもたまに行っていたので、そのうち5センチの渓流用ミノーも作るようになりました。

ミノーができるまでの全工程

1個作るのに、これだけの手順を踏みます。

  1. ミノーのデザインを紙に描く
  2. 透明プラ板に写して、型を切り出す
  3. バルサ材に左右の形を転写する
  4. バルサを切り出す
  5. 2枚合わせて、ペーパーやすりで形を整える
  6. ワイヤー(針や糸を留める芯)を曲げる
  7. バルサにワイヤーが入る溝を掘る
  8. オモリの入る穴を掘る
  9. ワイヤーとオモリを入れて、左右を貼り合わせる
  10. カッターで削って、ミノーの形を作る
  11. ペーパーやすりで面を整える
  12. コーティングする
  13. アルミ箔を貼る
  14. コーティングする
  15. 着色する
  16. もう一度コーティングする
  17. 目を貼る
  18. コーティングする
  19. リップ(水を受けて潜らせる板)をつける
  20. フック(針)をつけて、スイムテスト
  21. アイ(糸を結ぶ金具の輪)を調整して、泳ぎを整える
  22. 完成

紙に描いた線が、最後は水の中で泳ぐ。この間に22の工程があります。市販品を買えば1000円ちょっとで済むものを、なぜわざわざ、と思われるかもしれません。その答えは、この記事の最後に書きます。

一番難しいのは、狙った泳ぎを出すこと

削るのも塗るのも手間ですが、一番難しいのは狙った泳ぎを出すことです。

ルアーは、形が少し違うだけで水中での動きが変わります。オモリの位置と重さ、リップの角度と大きさ、本体の厚み。どれか一つずれると、思ったように泳ぎません。設計どおりに作ったつもりでも、水に入れてみるまで分からない。だから最後にスイムテストをして、泳ぎを確かめます。

ここが面白いところでもあります。頭で考えた形が、実際に狙いどおりに動いたとき。あの瞬間のために作っているようなものです。

失敗もします。色流れ、リップの傾き

もちろん、うまくいかないこともあります。よくやる失敗は2つ。

ひとつは色流れ。塗った色がコーティングでにじんで、狙った模様にならない。もうひとつはリップの取り付け溝が斜めになること。まっすぐ掘ったつもりが、わずかに傾いている。そうなると泳ぎが片側に寄って、まっすぐ泳ぎません。

斜めになった溝を見たときの、あの「あーあ」という感じ。仕事で公差を外したときと同じ気持ちになります。

結局、仕事の試作とやっていることが同じ

こうして工程を並べてみると、自分でも笑ってしまいます。試作と量産の仕事はどう違う?で書いた試作の流れと、ほとんど同じなんです。

一から考えて、工夫しながら作る。この部分が、仕事でも趣味でも一番の楽しみです。治具の記事で「考えて道具から作るのが面白い」と書きましたが、家でも同じことをやっているわけです。

自作で釣れたときは、思い入れが違う

では、なぜ買わずに作るのか。答えは単純です。自作のルアーで釣れたときは、最高だからです。

市販のルアーで釣っても、もちろんうれしい。でも自分で作ったルアーとなると、思い入れがまるで違います。自分が紙に描いた形。自分が削った線。自分が決めたオモリの位置。それが水の中で泳いで、魚が食いついた。設計から結果まで、全部自分の手の中にある。

この感覚は、仕事で味わうものとよく似ています。自分で考えて組んだ試作品が、狙った性能を出したとき。35年この仕事を続けられた理由も、結局はここでした。ものづくりが好きな人間は、休みの日まで同じことをやってしまうんです。

製造業に向いているかどうか迷っている人がいたら、一つの目安になるかもしれません。作ることそのものが楽しいと感じるなら、この業界は長く続けられると思います。

筆者:工業高校卒業後、1989年に自動車部品メーカーへ入社。1年間の企業内学園を経て試作課へ配属。以来、試作品の組み付けから性能測定までを担当。班長を経験したのち、管理職の道ではなくものづくりの現場に残ることを選んだ。 この記事は個人の経験にもとづくものであり、所属企業の見解ではありません。 詳しくは書いている人へ。