工場のリアル、先に言っておく 製造業に入る前に知っておきたいことを、中の人が書く

試作の仕事 2026-08-01

試作屋が量産ラインに応援に行った話。慣れたころ、時間が過ぎなくなった

私は試作課の人間ですが、20代のころ、忙しい量産ラインへ応援に行ったことがあります。1ヶ月を2回、合わせて2ヶ月。そこで一番おどろいたのは、体のきつさではありませんでした。慣れるまでは時間があっという間に過ぎるのに、慣れたとたん、まったく過ぎなくなったことです。

私は1989年に自動車部品メーカーへ入社し、試作課に35年います。試作から見たラインの話は試作と量産の仕事はどう違う?に書きましたが、今回は実際にラインの中に入って働いた話です。ライン作業が自分に向いているか気になっている人に向けて書きます。

やったのは組み付けと加工、それぞれ1ヶ月

応援は2回ありました。1回目は組み付けのライン。部品をセットして機械をスタートさせる作業です。2回目は加工のライン。こちらは機械への部品供給と、出てきたものの検査でした。

どちらも1ヶ月。試作課から普段の仕事を離れて、ラインの一員として入りました。

1日の流れ。休憩は2時間おきに10分

勤務時間はこうでした。

組み付けのラインは夜勤なし、加工のラインは夜勤ありでした。休憩は2時間おきに10分。この「2時間おきに10分」というリズムが、ラインの時間感覚をよく表しています。自分の都合で手を止められないから、休憩が時計で決まっているんです。

タクト(1個あたりの持ち時間)や1日の生産数は、正直もう覚えていません。数字を出せなくて申し訳ないのですが、覚えていないことは書かないことにしています。

慣れたころ、時間が過ぎなくなった

ここが一番書きたかったところです。

入って最初のうちは、ラインの流れについていくのに必死でした。次から次へと来るので、考える余裕がない。すると時間があっという間に過ぎます。1日が終わるのが早い。

ところが慣れてくると、逆転します。体が勝手に動くようになると、頭が暇になる。そうするとまったく時間が過ぎなくなるんです。何度も時計を見て、「まだこんな時間か」と思う。慣れて楽になったはずなのに、1日が長い。

ライン作業のきつさを聞かれたら、私はこれを挙げます。体がしんどいのは若ければ耐えられます。でも、慣れたあとに来るこの時間感覚は、また別のきつさでした。

一番の違いは「自分のペースで動けない」

試作とラインの違いを一言で言うと、自分のペースで動けるかどうかです。

試作にも忙しさはありますし、納期に追われもします。それでも、今日どこから手をつけるか、どの順番で進めるかは自分で決められます。ラインは違います。決められたタクトがあって、自分の都合とは関係なく流れてくる。この一点が、想像以上に効きました。

体のきつさで言えば、正直に書くと試作よりラインのほうがきついです。ただ当時は20代だったので、普通にこなせました。今の体で同じことをやったらどうなるかは分かりません。体の変化については体力の限界は何歳かに書いたとおりです。

毎日これを続ける人たちは、すごい

2ヶ月やって、一番強く思ったのはこれです。毎日同じ作業を、タクトを守ってやり抜く。この力はすごい。

私は応援なので、1ヶ月経てば試作に戻れました。でもラインの人たちは、それを何年も続けています。時間が過ぎない感覚とつきあいながら、決められた速さで、決められた品質で作り続ける。試作とは別の種類の強さが要る仕事だと、中に入って初めて分かりました。

「ライン作業は誰でもできる」という言い方を、たまに聞きます。中に入った人間として、それは違うと言っておきます。

試作に戻って「めんどくさいな」と思った

正直な話も書いておきます。1ヶ月の応援が終わって試作に戻ったとき、最初に思ったのは「めんどくさいな」でした。

試作は一から段取りを組んで作ります。図面を読んで、組み方を考えて、必要なら治具から作る。ラインの、来たものを決まった手順で処理するリズムに慣れた体には、それが億劫に感じられたんです。

もちろんすぐ戻りました。そして結局、自分で考えて作るほうが性に合っていると再確認しました。でもあのとき一瞬「めんどくさい」と思ったのは事実です。人間、慣れたリズムのほうが楽なんだと思います。

ただし、今のラインは変わってきています

最後に、大事な但し書きです。ここまで書いたのは私が20代だったころの話で、今のラインとは事情が違います。

今の量産ラインは自動化が進んでいて、人が手で組み付ける場面は減りました。どちらかというとオペレーターに近い仕事になってきています。設備が止まったときの不具合対応、完成品の品質チェック。人がやることの中身が変わってきているんです。

だからこれからラインで働く人には、私が味わったのとは違う日々が待っているはずです。それでも「自分のペースでは動けない」「決められたリズムがある」という骨格の部分は、たぶん変わっていません。ライン作業が向いているかを考えるときは、体力より先に、そのリズムに耐えられるかを考えてみてください。

工場勤務のきつさと待遇の全体像は自動車部品メーカーはきつい?正社員は割に合うのかに、残業と夜勤を含めた働き方の実際は残業ゼロの工場とパンパンの工場に書きました。

筆者:工業高校卒業後、1989年に自動車部品メーカーへ入社。1年間の企業内学園を経て試作課へ配属。以来、試作品の組み付けから性能測定までを担当。班長を経験したのち、管理職の道ではなくものづくりの現場に残ることを選んだ。 この記事は個人の経験にもとづくものであり、所属企業の見解ではありません。ラインでの経験は筆者が20代だったころのもので、現在の生産現場とは異なります。 詳しくは書いている人へ。