工場で35年働くと何ができるようになるか。使える機械と測定器を全部並べた
機械も測定器も、覚えるだけならその日のうちにできます。35年かけて身についたのは、機械の使い方そのものではありませんでした。
自動車部品メーカーの試作課で35年やっている現役社員です。工場で働くと結局どんな人間になるのか、自分の手の内を全部見せます。
使える機械と測定器を、全部並べます
思いつくままに書き出したら、37ありました。
加工と組み付けの機械
- 旋盤、フライス、グラインダー
- ハンドプレス、油圧プレス、サーボプレス
- 熱カシメ機、ハイスピンカシメ
- レーザー溶接機、フュージョン溶接機、はんだ付け
寸法を測る道具
- ノギス、マイクロメータ、イミクロ
- シリンダーゲージ、ハイトゲージ、ダイヤルゲージ、シックネスゲージ
- ピンゲージ、ブロックゲージ、リングゲージ
- 投影機、マイクロスコープ、同軸測定器、真円度測定器
性能を測る機器
- ヘリウムリーク測定器、リークテスター
- エアーフローメータ
- プッシュプル測定器(荷重を測る)、リニアゲージ
電気を測る機器とパソコン
- デジタルマルチメータ、絶縁計
- オシロスコープ、ファンクションジェネレータ
- エクセル、パワーポイント、図面ソフト
1つ補足すると、旋盤やフライスなどの加工機は、今ではほとんど使いません。昔は自分で治具を作ったり追加工をしたりしていましたが、今は加工班がやるようになったからです。
並べると多く見えますが、1つずつはそれほど大したものではありません。次でその話をします。
ほとんどは、その日のうちに使えるようになる
正直に書きます。この中のほとんどは、教わればその日のうちに使えます。
ノギスもマイクロメータも、持ち方と読み方を教わって何回か測れば、もう自分で測れる。リークテスターもオシロスコープも同じです。何年もかかる話ではありません。
少しだけ手こずるとすれば、ハンドプレスのような圧入(部品を押し込んではめること)の作業です。押し込んだあとの寸法を狙い通りに出すには、何回かやってみないと勘がつかめません。それでも段取りさえできていれば、すぐにできるようになります。
だから「機械が使えるかどうか」を入社前に心配する必要はありません。心配すべきなのは、この先の話です。
時間がかかったのは、レーザー溶接の条件出し
35年で一番時間がかかったものを1つ挙げるなら、レーザー溶接の条件出しです。
条件出しというのは、良品が出る設定を探す仕事。レーザーの出力や溶接の速度を変えながら、どの設定なら大丈夫かを詰めていきます。
設定を変えて溶接したら、その都度こう確認します。
- 溶接部をカットして、溶け込み寸法を測る
- 溶接部の強度を測る
- 気密が関係する製品なら、漏れを測る
- 溶接した後の寸法を測る
この繰り返しです。1つの設定を試すだけでも手間がかかります。
私がこれをやらせてもらえたのは、その職場に来て3年ほど経ってからでした。
難しいから遅いのではない。順番が回ってこないから遅い
ここが、この記事で一番書きたかったところです。
3年かかったのは、条件出しが3年かかるほど難しいからではありません。やらせてもらえなかったからです。
条件出しは、だいたい職制(現場の管理職)がやります。若手にはなかなか回ってきません。技術としては、やろうと思えばできる人はもっといるはずです。それでも順番が来なければ、いつまでも経験できません。
だからいつ任されるかは、職制次第です。回してくれる人の下にいれば早く覚えられるし、そうでなければ待つことになります。本人の能力とは別のところで差がつきます。
工場で伸びるかどうかは、覚えの早さより「誰の下でどれだけ任されたか」で決まる。35年見てきた実感です。
もう1つ遅かったのが図面ソフト。めったに描かないから
時間がかかったものが、もう1つあります。図面ソフトです。
使うのは治具の図面を描くときです。ちゃんと描けるようになるまで、1〜2年はかかったと思います。
ただ、これも操作が難しかったからではありません。治具が必要になったときしか描かないからです。しょっちゅう描くものではないので、1回描くと次まで間があきます。前にどうやったかを忘れたころに、また描くことになる。
描き方が分からないときは、先輩に教わりながら描きました。それを何度か繰り返して、やっと手が覚えます。
レーザー溶接は順番が回ってこないから遅く、図面ソフトは回数が少ないから遅い。どちらも、覚えの良し悪しとは関係ありませんでした。
一人前になったのは、職制になってから
自分で「もう聞かなくても回せる」と思えたのは、30代で班長になってからです。
理由ははっきりしています。職制になると、すべて自分の責任になるからです。分からないから誰かに聞く、では済みません。判断して、決めて、その結果を引き受ける。嫌でもやることになります。
逆に言えば、責任を持たされるまでは、どこか人任せのままでした。20年近く同じ現場にいてもです。技能を並べれば一人前に見えても、中身が追いつくのは責任がついてきてからでした。
班長を10年やって、その先の昇進試験を断った経緯は昇進試験を断って現場に残った話に書いています。
35年やって身につかなかったもの:旋盤とフライス
できないことも書きます。旋盤とフライスは、中途半端なままです。
企業内学園の1年で習いました。入社したころは、自分で治具を作ったり追加工をしたりもしていました。ただ、それを加工班がやるようになってから、触る機会がなくなりました。
今は、やろうと思えばやれる、という程度です。本職の人にはまったくかないません。
これはもっとやっておけばよかったと思っています。理由は転職です。
定年で辞めた人が、うちで加工をやっていた人でした。その人は今、加工会社で働いています。それを見て思いました。加工は、よそでも使える技能なんだと。
組み付けや測定は、その会社のやり方に合わせて覚える部分が大きい。加工はそうではありませんでした。同じ35年でも、外に持ち出せるものと持ち出せないものがあります。
これから工場に入る人へ
機械や測定器を覚えられるかは、心配しなくて大丈夫です。ほとんどはその日のうちに使えます。
代わりに、2つだけ頭に入れておいてください。
1つは、任されるまで待つ時間があること。覚えが早くても順番が来ないことはあります。焦らずに、回ってきたときに手を挙げられるようにしておくことです。
もう1つは、よそでも使える技能を選べるなら選んでおくこと。私は加工をやり込まなかったことを、今になって少し後悔しています。50代になってからでは、選び直しがききません。
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