自動化で工場の仕事はどう変わったか。35年同じ現場から見た変化
「工場の仕事は機械に取られる」とよく聞きます。35年同じ現場にいた実感を書くと、変わったところと、まったく変わっていないところが、はっきり分かれています。私のいる試作は、35年前とほぼ同じやり方です。
私は1989年に自動車部品メーカーへ入社し、試作課に35年います。予測の話ではなく、目の前で起きたことだけを書きます。
試作は35年、やり方がほとんど変わっていない
意外に思われるかもしれませんが、試作の仕事に自動化はほぼ入っていません。私が入社したころと今とで、作り方はほぼ同じです。設備もあまり変わっていません。
理由ははっきりしています。試作品は形状も基準の位置もよく変わるので、自動化しようとするとそのたびに設備を作り直すことになるからです。1回か2回しか使わないものに、そこまでのコストはかけられません。本当ならラインで使う新しい設備を借りて試してみたいのですが、それもコスト的に無理です。とりあえず物を作ることが優先されます。
例外もあります。大量生産することが決まっていて、形状も固まっている製品については、生産技術が試作用に自動の調整機を作ってくれることがあります。量産が始まる前の段階です。これを使うと、調整の作業は確かに楽になりました。ただ、あくまで例外です。試作と量産の違いは試作と量産の仕事はどう違う?に書きました。
変わったのはライン。昔は全工程に人がいた
大きく変わったのは量産ラインです。まず、昔のラインを説明します。
部品をセットして、起動ボタンを押す。出てきた製品を隣の設備にセットして、また部品をセットして起動ボタンを押す。一人が何工程かを受け持って、タクト(1個あたりの持ち時間)に合わせて回していました。その人たちがずらりと並んでいたわけです。私が20代で応援に行ったころのラインが、まさにこれです。
今は工程ごとの自動化が進んで、この形はだいぶ減りました。並んでいる人の数が減ったラインもあります。
それでも、人が並ぶラインのほうが今も多い
ここは正確に書きます。全部が全自動になったわけではありません。
部品をセットしておけば、組み付けから性能測定まで全自動で流れるラインもあります。ただし、それはごく一部です。今も人が並んで作業しているラインのほうが多いのが実際です。変わったのは、そこに並ぶ人数のほう。
判断の基準は、たぶん採算です。数がたくさん出る製品なら、設備に投資しても元が取れます。少量しか作らない製品を自動化しても、コストが合いません。技術的にできるかどうかより、金勘定で決まっているのだと思います。
並んでいた人が減ったあと、その人たちがどこへ行ったのかは、私には分かりません。他の部署に移ったのか、採用を減らしただけなのか。そこまでは見えていないので、書けません。
自動化されない作業には、理由がある
機械に置き換わらない作業もあります。私が見ている範囲では、こういうものです。
- 隙間の少ない場所にハーネス(束ねた電線)を差し込む作業
- 配線の取り回し
- 数が出ない少量生産の工程
前の2つは、機械にやらせるのが技術的に難しい作業です。狭いところに柔らかいものを通す動きは、人の手のほうが速くて確実です。最後の1つは、さきほどの採算の話です。「できない」と「割に合わない」は別の理由ですが、結果はどちらも同じで、人がやることになります。
最終の検査は、今も人の目
検査はどうか。工程の途中にある外観検査には、カメラの画像で自動判定しているものもあるようです。
ただし最終工程の検査は、ほとんど人の目で見ています。考えてみると、検査の仕事はそこまで変わっていない気がします。35年前も今も、最後は人が見て判断している。性能測定の中身も、大きくは変わっていません。
紙は減った。ただし図面は今も紙
ここは確実に変わりました。紙にデータを手で書くことは、今はありません。記録も報告書も、すべてパソコンです。
良くなった点もあります。データの共有がしやすくなりました。報告書に画像を貼り付けられるので、文章だけで説明していたころより、はるかに伝わりやすい。
ただ、楽になったかと聞かれると微妙です。できることが増えたぶん、やることも増えました。手書きのころは書けなかった資料を、今は作れてしまう。作れるなら作ろう、となります。
そして意外かもしれませんが、図面は今も紙で発行されます。画面で見るのではなく、紙を持って現場に立つ。図面が読めるようになることの大事さは、35年前と変わっていません。
人に残る仕事は、まだある
これから工場で働く人に向けて書きます。自動化が進んでも、人がやる仕事は残っています。
- 設備への部品の供給
- 最終工程の外観検査
- 設備のオペレーター
ひとつ注意しておきたいのは、オペレーターの仕事には設備が止まったときの対応が含まれることです。ここには危険があります。正しい手順で直さないと、設備に手を挟まれることがある。自動化されたから安全になった、という単純な話ではありません。
では入る前に何を身につけておくべきか。入ってから覚えれば大丈夫だと思います。あえて言うなら、パソコンは使えたほうがいい。エクセルとパワーポイントの基本操作くらいで十分です。QC(品質管理の活動)のまとめでも使います。資格も入社前に取る必要はありません。
最後に、私自身の実感を書いておきます。自動化は35年かけて確かに進みましたが、現場を丸ごと飲み込むような進み方ではありませんでした。採算の合うところから、少しずつです。一方でEV化で仕事そのものが消えるという変化のほうが、私にとってはずっと大きな出来事でした。仕事がなくなるとしたら、機械に取られるより先に、その製品が要らなくなるからだと思います。