高卒と大卒で、工場のキャリアはどう違うか。35年見てきた現実
先に、きれいごとではない部分から書きます。給料の差は縮まりません。配属される部署も入口から分かれます。上に行ける役職にも、はっきりした線があります。
それでも私は、高卒で入って良かったと思っています。私は1989年に工業高校を出て自動車部品メーカーへ入り、試作課に35年います。差がある部分と、差にならない部分を、両方書きます。
入口から道が分かれる。高卒は現場、大卒は技術や事務
まず、配属先が違います。うちの会社の場合はこうです。
- 高卒:現場(ライン、検査、保全、工機、試作など)
- 大卒:技術、生産技術、事務など
入社した時点で、進む道が分かれています。あとから移ることがまったくないわけではありませんが、基本はこの形です。工業高校から部品メーカーへにも書いたとおり、高卒で入るというのは「現場に入る」ということです。
給料の差は、縮まらない
初任給の時点で、当然のように差があります。そしてこの差は、年数が経っても縮まりません。
「最初は差があっても、実力で追いつける」という話を聞くことがあります。うちの会社に限って言えば、そうはなっていません。差は差のまま、ずっと続きます。ここは期待しないほうがいいところです。給料の中身については自動車部品メーカーはきつい?正社員は割に合うのかに書きました。
天井はある。ただし製造部の部長までは行ける
昇進はどうか。高卒でも、製造部の部長にはなれます。現場から上がっていって、そこまでは道がある。
ただし、それ以外の部の部長や役員は大卒です。ここははっきりしています。会社全体の経営に関わる位置に行くなら、大卒でないと難しい。天井があると言えば、あります。
とはいえ、製造部の部長というのは現場の人間にとって十分に高い場所です。「高卒だから一生ヒラ」ということでは、まったくありません。私は昇進試験を断って現場に残りましたが、それは学歴の話ではなく、向き不向きの話でした。
私の職場に、大卒はいない
ひとつ補足しておきます。私のいる試作の現場に、大卒の人はいません。だから「同じ職場で大卒と高卒が並んで働いていて、扱いが違う」という状況を、私は経験していません。
ここは大事なところだと思います。差はあるのですが、目の前で比べられる差ではないんです。日々の仕事で、隣の人の学歴を意識する場面はありません。
設計の人と組んで分かった、役割の違い
大卒の人と関わるのは、技術部門と一緒に仕事をするときです。設計の人たちですね。正直に言って、頭がいいです。
具体例を挙げます。部品を圧入する(押し込んではめる)とき、荷重をどこまでかけていいのかという問題があります。かけすぎれば部品が壊れる、足りなければ入らない。この限界を、設計の人は計算で出してくれます。私たち現場の人間には、まず無理です。
逆に、その計算どおりに実際の部品が入るかどうかは、手を動かしてみないと分かりません。治具をどう作れば安定して圧入できるかも、現場が考えることです。これは役割分担であって、優劣ではありません。どちらが欠けても、試作品は形になりません。
それでも不利だと思ったことがない理由
35年のうちに「大卒だったら違ったかな」と思ったことがあるか。ありません。
理由は単純で、技術者になるつもりも、上に行くつもりもなかったからです。行きたい場所に行けなかったなら不利ですが、私が行きたかったのは現場でした。そこに高卒で入れたのだから、不利の感じようがありません。
私は勉強が苦手で、ものづくりが好きでした。その2つが分かっていれば、進む先は決まります。4年早く現場に立てたぶん、手を動かす時間は誰よりも長く取れました。
工業高校生に相談されたら、こう答えます
工業高校の生徒から「就職か進学か」と聞かれたら、まずこう思います。本気で進学するつもりなら、工業高校には来ていないはずです。普通科に行っているでしょう。
そのうえで答えるなら、就職して、いろいろなスキルを身につけたほうがいいと言います。現場で覚えることは山ほどあります。企業内学園のような教育の仕組みを持っている会社もありますし、図面が読めなくても入ってから治ります。
ひとつだけ、付け加えておきたいことがあります。会社も、これからずっとあるわけではないと思っています。私が入ったころは、一つの会社に定年までいるのが当たり前でした。今はEV化で仕事が消えるのを目の前で見ています。
だから「良い会社に入れば安心」とは、もう言えません。とはいえ、どこでも通用するスキルというのは、そう簡単に身につくものではないとも思います。それでもいろいろなスキルを身につけておけば、別の会社へ行ける可能性は広がります。学歴の差は縮まりませんが、できることは自分で増やせます。これが35年やってきた人間の答えです。